合気道小林道場 Aikido Kobayashi Dojo

その3 平成8年4月

 小林道場では、ほとんどの道場で子供クラスを開設しています。私は今までに、日本だけでなく海外の言葉の通じない国で、子供クラスを指導しました。私が、指導したのはこれまで、アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、スウェーデン、フィンランド、台湾の各地の道場です。

 先日もカナダのカルガリー合気会で2月23日から一般の講習会を三日間開きましたが、その時子供クラスの指導もしました。外はマイナス20度から30度あり、東京では考えられない寒さでした。子のような寒い日でも、親が車で道場まで、子供たちの送り向かえをしています。120畳ある広い道場で、約20名の子供たちが来ていました。日系人、東南アジア人の子供が四名おり、その他は白人の子供たちでした。

 その日の指導は、日本の稽古と同じように合気道創始者植芝盛平先生の写真に礼をしてから、準備体操を始めました。号令は日本語でイチ・ニイ・サンと行いましたが、恥ずかしがって英語で掛ける子も子も居ました。受け身は普段やっていない、お互い向き合って走り、一方がぶつかる寸前に台になって、もう一方がそれを飛び越えるという受け身を行い、皆最初は戸惑っていましたが、楽しそうにやっていました。技は回転投、入身投を行い、子供たちは皆上手にできていました。補助体操は腕立て伏せ、逆立ち(英語ではハンドスタンドという)を行い、一時間の稽古はあっという間に過ぎました。稽古後子供たちの道衣にカタカナで名前を書いてあげたところ、親たちも大喜びしていました。

 子供クラスの指導は大人の指導と異なっています。各国の先生が子供クラスは難しいと大変苦労しています。私も始めは大人と同じように指導していましたが、子供たちはすぐに飽きてしまい、勝手に遊び、走り回ります。子供にはどのような指導方法が良いのか色々考え、初めて道場に来た子供たちをよく観察してみました。子供たちは道場が広いのでいきなり走り出し、それが飽きるとでんぐり返しを始めます。家庭で畳の上で走るな、騒ぐなといつも言われている反動かもしれません。

 子供たちに合気道を習わせたいという父兄の意見はどのようなものが多いのでしょうか。その理由は、体が弱い、内気でおとなしすぎる、友達があまりできない、といった声がある反面、活発すぎるため道場でエネルギーの発散としつけを教えてください、などの声があります。

 小林道場の子供クラスの指導方針は、技はもちろんですが、礼儀、挨拶(おねがいします・ありがとうございました)、整理整頓(くつ・自転車の置き方・おびのむすびかた・どうぎのたたみかたなど)基礎体力(補助体操など)などに重点をおいて稽古しています。また技もケガのないように子供クラス用の技を考案しました。そして、技の稽古は回数を決め、同じ回数を全員で行います。さらに、合宿などでの集団生活の経験をできるようにしています。

 現在では普段の生活の中で、正座して挨拶をするような機会はほとんどなくなっています。したがって、道場で技を行うときなどに、正座して挨拶をするということは、大変よい経験になると思います。また、マジックテープなどの普及により、小学4年生位の子供でも、蝶結びができない子供が居ます。道衣を自分で着ることにより、自然とヒモの結び方も覚える事ができます。子供たちの審査にもこれを取り入れ、級によって何秒で結ぶことができるかを練習します。また、高学年の子供たちには、自分の帯だけでなく、相手の帯も結べるように訓練させています。

 基礎体力の面では、全身の力を鍛えるように注意して指導しています。野球肘などのように、子供の時から一部分だけを使う事は、大変な危険があります。したがって、運動の基本である、走る、跳ぶ、転がる、といった運動を取り入れ、かつ子供たちが楽しくできるように工夫して行っています。最近の子供は、つまづいて倒れたときに、とっさに手を出せずに、顔から転ぶと聞いています。稽古に来ている子供たちの親からは倒れたときや、階段から落ちたとき、自転車で倒れたときなど、合気道の受け身をしてかすり傷で済んだという話はよく聞きます。特別な例ですが、以前、親の目の前で子供が車道に飛び出し、走ってきた車の側面に当たりましたが、とっさに受身をとりケガもしませんでした。「合気道を習わせていて本当によかった。」と言っていました。それ以外にも、体が丈夫になった、内気な子が活発になったという話も良く聞きます。

 毎年やっている昇級審査で帯の色が代わり、子供たちの励みになっています。親の意見で、「私の子供は上手になっていないから審査を受けさせない」といわれる方がありますが、帯の色は子供たちの努力の結果ですので、認めてあげてください。合気道は試合がありませんので、成果を発表する演武会などにも積極的に参加をお願いいたします。

 世界各地で子供たちが合気道を稽古しています。私たちも他の国に負けないように、指導してゆきますので、よろしくお願い致します。


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