合気道小林道場 Aikido Kobayashi Dojo

その25 平成19年10月

今年の夏は暑い日が多く、観測史上最高気温を日本の各地で記録しました。テレビやラジオでは、室内にいても熱中症を警戒するように呼びかけています。この暑さにも負けず稽古に熱心に来て下さる会員の皆様には頭が下がります。

今年の夏休みは会員の方の別荘に行きました。「先生、何もない山奥ですが私の別荘に遊びに来て下さい。涼しさと緑はふんだんにあります。」の言葉に甘えました。私と他の会員男性2名、女性1名の4名で山梨県笛吹市の山間の集落の更に上にある、これより上は人が住んでないという別荘にお邪魔してきました。確かに聞こえるのは鳥、蝉の鳴き声そして川のせせらぎだけです。

車を降りたとたん薪割りをやってくださいと薪と斧を出されました。冬は寒いので薪はたくさん準備しておかなければとの事です。薪割りは剣の振り方の修行にもなります。大いに割っておいて下さいとの事です。

一番目の薪は私が綺麗に割りました。私は東京の都心で育ちましたが、戦争中は母の実家である栃木県佐野市に疎開をして薪割りを経験しました。また、東京も空襲で焼け野原になり、ガスなど思うように使えず、薪でご飯を炊き、風呂も薪で沸かしていました。薪割りは子供達のお手伝いの重要な部分を占めていました。しかし最近は長い間、薪割りなどしていませんでしたが身体が憶えていて綺麗に割ることができたのです。

同行した人達は皆50才前半で合気道歴25年以上の人達です。薪割りは初めての事でした。少し斧の振り方の注意を受け、割り方の要領を教わりました。長年木剣を振っていますのでコツさえ掴めば木剣の振り方と要領は同じです。しばらくすると、難なく薪を割る事ができるようになりました。通り掛かった三十才ぐらいの女性が薪割りは珍しいからと敷地内に入ってきて見学していました。薪割りを行わせると初めの何回かは薪に斧を当てることもできませんでした。皆で応援し2、3本割ってもらいました。本人も満足して帰っていきました。人間何でも体験してやっておくものだと思いました。

日本の武道には古来、日本人が培ってきた身体感覚を追体験できる素晴らしい身体文化が含まれています。私達は日本の武道の一つ合気道を修行しています。道場での入退場の時にする礼は自己を修行で高めてくれる場に対する礼です。武道の場合は修行に必要な物は用具といわず道具といいます。

修行に必要な道具の杖・剣の整理、整頓そして取り扱いは色々な規則が有ります。木剣は道場の壁に掛ける場合は歯を上に向けて掛け、稽古の時使いやすい様にします。畳の上に置く場合に足蹴にしたり、またいだりする様な所には絶対置かない事です。真剣と同じ気持ちで扱わなければなりません。杖の長さは尺貫法で「死(シニ)を超える」といって四尺二寸一分の長さで、太さ八分が基準です。合気道の場合は杖を持って投げる技が有りますので、曲がったり折れたりしますので最近は九分の太さを多く使っています。

道着は稽古してくれる相手に対して失礼のない様な清潔な物でほころびの無いも物を着なければなりません。袴には五つの折り目が有ります。中国の五行説に源を発しているそうです。儒教で人が守るべき五つの徳目である、孝行、忠性、男女の役割、上下の秩序、信義です。袴に足を通すとき五つの徳目を認識し、誇りを反復させる事で気構えと人格を築く事を求めているのです。

戦後日本人が獲得したものは豊かさ、便利さ、それに効率です。失った物は「心のあり方、持ち方」です。特に礼儀や相手を思いやるマナーの道徳的な考えかたが失われた様に思います。近年、親兄弟の肉親でも平気で殺害する事件が多く新聞やテレビで報道されています。これを見ても自己中心的な考えが世の中にはびこっているのがよく分かります。

合気道を修行する事により、相手の痛みを知り、自分がより良く変わって行く楽しさを知り、他人に喜ばれる生き方を学んでいます。この考えに基づき合気道小林道場の基本方針「一人でも多くの人に合気道を」をモットーに指導部一同努力しています。これからも、皆様のご協力をお願いいたします。


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